盲腸が消えた21の夏(1)胃痛だと思ったら盲腸だった話。

21の夏、盲腸になった。 体から盲腸が消えた。つまり、切った。ちょん切った。切腹した。死なずにしぶとく生きている。
人間というものはそう簡単に死なないのだ。

 

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突如現る謎の症状

社会人一年生の初夏のことである。 なんとなく胃のあたりが痛い、吐き気が止まらないという日が続くようになった。

専門学校を卒業して慣れないOL生活とやらを送っているストレスなのだろうか、と特に気にしないでいた。これまでの人生、大きな変化があると体調を崩すことがあったため今回も同じものだろうと自分を納得させていた。 が、日に日におかしな状態になっていくのである。吐き気はする、胃が痛い。あんなに大好きだったフライドチキンを食べても戻してしまう。タバコがまずい。それでも新人のうちは会社に行かねば、と思いなんとか出社していた。

 

ギブアップ 助けを求めて 三千里

が、とうとう耐えかねて午前中休みをもらい病院へ行った。 血を抜かれ、点滴をされ、わたしの腕は注射の跡だらけになりヤク中人間のようになってしまった。 出社後、このザマを見た上司が苦笑いしていたのを今でも思い出す。

余談だが点滴を打った看護師がこれまた下手くそで、血管に届かず見事に失敗された。 失敗するとどうなるか。痛みが走るのはもちろんなのだが、刺している箇所が水ぶくれのように膨れてくるのである。 この有様にはさすがにベテラン看護師が腰を抜かしていた。いや腰を抜かしている場合じゃなかろう、やり直してくれ。

禁断のバリウム

ところが一向に腹の調子が悪い。薬を飲んでも、点滴を打たれても治る気配がない。辛うじて胃のあたりの痛さが治ってきたので薬が効いたか?と思ったがなんとなく不快感が拭えない。 これはもしや「バリウム」というやつを飲まなくてはならないのか。あの、健康診断でオッサンたちがまずそうな顔をして、口のまわりを白ひげ状態にしながらのむあのバリウムってやつを。 最後の勇気を振り絞り、意を決してバリウム検査を申し込んだのだ。

検査の日が来た。メシは抜け、と言われていたので胃の中は空っぽだ。いやいや食べても吐いてしまうから空腹でも食べても同じだろ、と言いたいがここはグッと我慢をし胃に異物を入れぬようにする。
バリウム検査というとアレだ、ヘンな白いドロッとした液体っぽいものを飲まされ、体を固定されてぐるぐる回されるアレだ。バニラシェイクと思いながら飲むとまずくない、なんてよく言われるようだがあんなもの側から見るとバニラシェイクどころか脱脂粉乳にしか見えない。バニラシェイクみたいでうまいと言うのはつるピカハゲ丸君一家くらいなもんだ。
それだけではない、バリウムを飲まされる前に発泡剤を飲まされ、「げっぷしないでくださいね〜」なんて言われる。もしもげっぷをしようものならばフルボッコ&再び発泡剤の刑となる。
げっぷに耐え、ぐるぐる回される拷問に耐えに耐え、最後にはバリウムを押し出すために下剤と大量の水をわんこそばの如くこれでもかと飲む。バリウムが腸の中に滞在すればするほどどんどん固くなっていき排出が困難になる。つまり最後にはフン詰まり女になる。一体どんな罰ゲームだ。受けたことないから知らんけど。

なんて色々考えながら嫌々胃腸科へ行く。自分で申し込んだくせにこの嫌々っぷり。いや、こんな検査をうけなきゃならざるをえなくなった自分の体を思い切り呪いたくなる。デッドオアアライヴ。死にたくなきゃバリウム飲めってやつだ。
 

ついにバリウム、のはずが…

いざバリウム!白ひげ危機一髪の時間がやってきた。その前に事前検査をする。 診察台に乗せられ、腹を触られる。 わたしは今、まな板の上の鯉である。

…あれおかしいぞ、胃はまったく痛くない。 うぉっと!右腹が痛い。 あっ、バカっ、右腹を押すなボケ医者が!! そう、胃痛ではなく盲腸だったのだ。

これまでの診断結果や血液検査の結果、そして触診を始めとする再度の綿密な検査の総合的な結果から盲腸と診断される。一応言っておくが、病院へ行っていきなり右腹押されて「盲腸!テメェは盲腸だ!切るぜオラ!!」なんて言われたわけではない。ちゃんと事前の検査があってからの判断である。もしそんな医者が居ようものならばヤブ医者どころの話ではない。犯罪レベルである。

医者:「盲腸だね〜うん、では、入院だから♪」。

「入院だから♪」じゃねぇぇぇぇ。いきなり入院だなんて言われて動揺するなと言われても無理な話である。しかも必要なものは何も持ってきていない。お金だってその日の診察代プラスアルファしかない。

と、あれよあれよと入院が決まってしまった。家に帰ることは許されない。何も抵抗できずに拘束される日々が始まったのだ。まるで逮捕された被疑者の気分だ。 だがここでおろおろしている場合ではない。ここは警察ではないしブタ箱ではない、ここは病院であり、胃腸科であるのだ。外部へ電話やメールくらいできる。すぐさま会社へ入院する旨の連絡をし、ついでに自宅にも電話を入れる。携帯の充電器やらその他諸々を差し入れしろ、と母親へ命令する。大丈夫だ、持ち物の制限はないのだ、ブタ箱じゃあるまい。
ついでに東京-宇都宮間で中距離恋愛をしていた当時の男にもとりあえずメールを打つ。どーせ見舞いになんぞ来ないのはわかっていたが死んだと思われたらシャレにならないので一応生存報告ってことで。

後から知った事実…盲腸はこんな症状

そういえば数日前、全く経験したことのないひどい痛みが襲ってきたのだ。 ある休日の夜、転げ回るほどの痛みが突然襲ってきたのだ。実はあれは盲腸の破裂寸前だったらしい。 そう考えると本当にぞっとするが、じゃなぜそのとき救急車でも呼ばなかったのか、家にいる家族にヘルプミーをしなかったのか、全くもって謎である。

そして改めて調べてみると、盲腸はこういう症状だった!

どんな症状だと急性虫垂炎が疑われるのでしょうか?? ・嘔吐・吐き気嘔吐・下痢による消化液の喪失により、脱水や身体の中の電解質異常を呈することがあります。 ・腹痛上記のように急性虫垂炎の腹痛は当初はお臍の周り(臍周囲)やみぞおち(心窩部)の痛みから、半日くらいすると痛みの部位が右下腹部に移動してくるというのが特徴的です。

※引用:小児外科医から見た急性虫垂炎〜お子さんのお腹の痛みは”盲腸”じゃありませんか??〜

 

めっちゃドンピシャである。まさにわたしの症状そのものだ。 しかし盲腸も素直ではないものである。みぞおちからじわじわとボディブローのように攻めてくるのではなく、最初っから右腹の痛みを出せば良いものを。遠回りをして痛みを与えてまでそんなに人間を苦しめたいのか。

なお、わたしの場合転げ回るほどの痛みがある程度消えてから病院へ行ったため緊急手術にはならず、後日開腹手術という流れになっていた。もし数日前に病院に運ばれていたら即刻腹を切られていたのかもしれないと思うとゾッとする。

意外な結末…バリウムどころかメス

電話に出た母は「嫁入り前の体にメス入れるなんて〜!」なんて言っていたがしょうがないのだ。好きでメスを入れるわけではないのだ。だが散らせば今度はまた忘れた頃にあの猛烈な痛みが襲ってくるのだ。そう考えれば盲腸なんて取ってしまったほうが身のためである。入れ墨を入れるわけじゃあるまいしたかだか数センチの腹の傷だ。今後の人生、温泉も入れなくなるわけでもなくCTスキャンが受けられなくなるわけでも、間違ってもヤクザやアウトロー人間だと思われるわけでもない。これが入れ墨だったらそうもいかない。

やれやれ参った、バリウム嫌だ嫌だと言っていたら結局「盲腸」だと判断され、腹を切る羽目になってしまったのだ。バリウムと開腹手術、天秤にかけたら明らかにバリウムの方がラクだった。まるで懲役3年が無期懲役になってしまった気分だ。懲役なんか受けたことないからよく知らんけど。 これからは毎日会社から解放されるぅ♪と嬉しがる反面、腹にメスを入れる恐怖と戦う日々が続くと思うと憂鬱になる。とりあえず個人ボロ病院に拘束される日々が強制的に始まったのである。

そしてこれを書いている30もとっくにすぎた今でもわたしはバリウム処女なのである。

続く↓

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写真:フリー写真素材ぱくたそ