盲腸が消えた21の夏(3)やってきたXデー、さらば盲腸。

入院生活が始まって早々、命がなくなるかと思った。 スキンヘッドの見るからに危なそうなジジイと出くわしたのである。もう手術どころではない、わたしはポアされる。 というわたしの心配は杞憂に過ぎなかった。
あのジジイはフレンドリーすぎるほどいい奴だったのである。 とりあえず味方にはなってくれているようである。ひとまずホッ。

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前回までのおはなし。 

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一日数回、ロビーでスキンヘッドジジイと会えば談笑し、病室に帰ればテレビやマンガを見て(この頃はスマホなんてものはなかったので特に携帯電話が暇つぶしの道具にならなかった)、家族が面会に来れば相手をする。点滴がなくなれば取り替えてもらう。食事が出されれば食べる。そんな平穏な一日を送っていた。

だがいつまでものほほんと日が過ぎていくわけがない。 とうとうXデーがやってきたのである。 

やってきたXデー

あるよく晴れた土曜日の朝である。 突然医者が病室に入ってくる。

「調子はどうかな〜?うんうん、じゃ、今日、切るから♪♪♪」

なんですと?!「今日切るから♪」と軽く言わないでくれ。 これはまさに「死刑執行を告げられた死刑囚」の気分である。ちょっと待て、気持ちの整理がついていない。 わたしの知らないところで粛々とメスを入れる日を調整していたのである。

穏やかな朝が一気に暗黒と化した。 ただここは拘置所ではない。拘置所では死刑執行を告げられたら即!部屋から引っ張り出されそのまま刑場へ向かい速やかに死刑執行となる。 しかしここは病院である。胃腸科である。即!手術台、ということにはならない。手術になることを伝えなければ。

ありとあらゆるところに連絡をしまくった。 最優先は自宅だ。「切ることになったから病院へ来てくれ」と母親へ告げ、友人や付き合っている男には「盲腸を切ることになった」とメールする。友人や男にメールする必要はないのだが、迫り来る恐怖を和らげたかったのか、しこたま連絡をしまくった。

とうとうわたしの腹が切られる。恐怖で潰されそうになる。今すぐここから逃げ出したい。

「その時」が来る

開腹手術は午後からだ。 手術直前の昼食は抜き。ありとあらゆる食べ物が頭の中をぐるぐると駆け回る。 昼になり、なんと付き合っている男が現れた。週末を利用して実家に帰ってきていたらしい。とりあえず二人でバカ話をしながら気を紛らわしている頃、オペ室では刻々と手術の準備がされていく。

ついにそのときがやってきた。 看護師がお迎えに来た。違うガウンに着替えさせられる。 付き合っている男からは「頑張ってこい」と背中を押され、看護師と一緒にオペ室まで向かう。 途中、他の病人に混ざって例のスキンヘッドジジイが心配そうにこちらを見ている。おっちゃん、わたしは大丈夫…じゃない(泣)

手術台に上がるに際し、注意事項を聞く。 腸の一部を切断するにあたり、術後は腸の動きが止まった状態になる。よって、腸が動くまでは絶食はもちろんのこと、水一滴も摂取してはならないとのこと。腸が動いていない状態で飲食をしてしまうと死に至るそうだ。 …ようは「オナラが出たら腸が動いた証拠」ということだ。

手術は全身麻酔になるため本人の同意書が必要になる。 手術にあたり麻酔の同意書にサインをし、初めて手術OKとなる。

オペ室では患者の不安を和らげるためなのかわからないが、なぜかハワイアンミュージックがかかっていた。 それと同時に、ラジオまでついていたようで、陽気なDJの喋りが響き渡っていた。 なぜハワイアンミュージックなのだ?! なぜラジオまで一緒についているのだ?! そして肝心の医者は鼻歌を歌いながらメスを取り出している。怖い!!

と、いきなり看護師からツッコミを食らう。 「あら、あなた、お化粧なんかしてきちゃダメじゃないの」 そうなのだ、いろんな人が来るから、というわけのわからない理由で化粧をしていたのである。 というより、手術台に上がってから突っ込まないでくれよ!なんで今更なの! これでは医者が患者の顔色を伺うことができないので危険である。 入院生活をしている時点で化粧をする方がおかしいのである。そういうわけで手術を受けるときは絶対に化粧をしないこと。

とうとう麻酔を打たれた。麻酔の注射って本当に痛い。 あまりの痛さにぎゃーぎゃー喚きちらしていたが、いつのまにか記憶がなくなる。 

手術終了、迫り来る地獄

目が覚めたときには病室だった。どうやら数人でわたしを運んできたらしい。すでにわたしの腹からは盲腸が姿を消していた。代わりに腹が縫われ、でかい脱脂綿が覆いかぶさっていた。 ちょうど母親が来ていたので男とバトンタッチ。 母親は術後の説明を受けたそうだ。きっと「あいつにエサを与えるな」的なことを言われたのであろう。 同時に切ったあとの盲腸を見せられたそうだ。なんとすでに治りかけていたらしい。切られたのは無駄だったか。 まだ麻酔で若干ぼーっとしていたのだが、また頭の中でありとあらゆる食べ物がぐるぐる回っている。 退院したら食べたいもの…ケンタッキーフライドチキン、いちごのショートケーキ、アイスクリーム、あれこれあれこれ…

と、数時間後、突然痛みが襲ってきた。麻酔が切れたのだ。 腸を切ったわけなので半端じゃない痛みが襲ってくる。 痛い痛いと喚き叫んでいたら母親が医者を呼ぶ。 呼ばれてきた医者はすかさずわたしに麻酔を注射した。眠らされたのだ。

わたしが眠った隙に母は帰宅したようだ。 ふと目を覚ますと夜の9時くらいだ。すると携帯が鳴った。

付き合っている男からだ。 とりあえずこっそり出てみる。 どうやらどこかで飲んでいるようだ。酔った勢いで電話してきやがったな?!

愚兄お兄さんと一緒に飲んでいたようで、途中電話の向こうでは愚兄お兄さんに交代してきた。
「あ、もしもし、アヘラちゃん?お久しぶり!あいつから聞いたんだけど、今日盲腸切ったんだって?!大丈夫!?」
ハァ、大丈夫です、ご心配かけてますすいません(棒読み)。わたしアンタがウザいんで電話切って良いですか?

「今ね、あいつと飲んでいるんだけどこれから来ない〜?

盲腸切った日に酒飲むバカがどこにいるんじゃ!お前か!お前かっ
入院中はバカを相手にするのは絶対にやめておきましょう。傷が開くぞ。 

おまけ:盲腸手術前、手術後の心構え

盲腸の手術を受けることになり、あなたは今恐怖心でいっぱいであろう。 少しでもあなたの恐怖心が和らぐことを祈って、わたしなりの「手術前、手術後の心構え」を書いておこうと思う。

  • 手術の日は家族や大切な人たちへ必ず連絡しよう。万が一、ということもあるから。
  • 手術前に化粧をするな。術後の顔色が見えなく危険だ。まずめかし込んでも無駄なだけ
  • 麻酔注射は猛烈に痛いが次第に眠らせてくれる。眠ってしまえばこっちのもんだ。
  • 手術は寝ている間に勝手に終わるから心配ご無用。あなたはただ寝ているだけで良いのだ。
  • 手術後オナラが出るまでは絶対に絶食すること。たとえ水一滴でも飲まないこと。
  • もし何かしらの飲食物を無理やり勧めてくる輩が居たらそいつとは縁を切れ。
  • 麻酔が切れたあとはさらなる痛みが襲ってくる。我慢せずにナースコールをしよう。
  • 飲みに誘われても絶対に行かぬように。人としての信頼をなくす。己の死を意味する。

続く